これまで数え切れないほど読んできた本の中でも、上位10冊に入っているのが
『失敗の科学』という本。
私が抱く失敗というものの理解を根底から覆し、仕事やプライベートの取り組み方を大きく変えた本です。
前作:『失敗の科学』
例えば、航空会社と医療業界の違い。
航空会社の場合、コックピットにはブラックボックスが必ず設置され、万が一事故が発生したとき、航空機の計測機器の値やコックピット内の乗務員の会話などを手掛かりにして徹底的に原因究明が行われます。
事故の状況は客観的に全てさらされ、検証されるのです。
そして、そこで判明した原因は、次の事故を防ぐために共有されます。
小さな一例ですが、コックピットの座席が固定式でそれが原因で事故が続いたことがありました。
そこで、座席の高さや位置を個人の体型や好みに合わせて調整できるようにしたところ、同じ原因から生じる事故が激減したとのこと。
一方で、医療業界は非常にクローズで透明性がない業界。
手術は限られた数人の医療関係者しか入っておらず、カメラなどもない。
患者が命を落とすような重大事故でも、医療従事者側は(無意識にせよわざとにせよ)、「自分たちに落ち度はない、事故ではなかった」と主張しますが、特に患者の立場で立証することは非常に難しい。
そして、日々世界中で起きている医療事故の詳細(原因や再発防止策)は、他の関係者に共有されることはほとんどありません。
航空業界でも医療業界でも、ミスが命にかかわることに変わりはありません。
一方で、全てのミスを完全に防ぐことは不可能。
であれば、起きてしまったミスを二度と起こさないようにする仕組みが欠かせません。
その観点から、両者の体制や仕組みは対照的といえます。
私自身も、ミスを否定したり逃げたりするのではなく、きちんと向き合える人間になろうとこの本を読んで決意しました。
その著者であるマシュー・サイドが著したのが本作、『多様性の科学』。
『失敗の科学』では失敗を切り口に組織や業務・事業をどう改善していくのかという視点でしたが、今回は多様性がテーマ。
多様性は、組織が最大限に力を発揮するために欠かせない
強い組織(高パフォーマンスを発揮する組織)に欠かせないものが多様性。
多様性を欠いたことで失敗した例は、枚挙にいとまがありません。
- CIA(中流階級出身の白人男性ばかりの組織。イスラムの文化や発信するメッセージの意図を読み違え、9.11のテロの傾向を察知できなかった)
人種のるつぼと呼ばれるアメリカであっても、多様性を欠いて失敗するケースは珍しくありません。日本では、いっそう多様性が生まれにくい職場環境なので、他人事ではありません。
一方で、多様性によって改善された例もあります。
- イングランドのサッカー協会(IT企業やラグビーなどの異なる企業・スポーツ界のスペシャリストを招聘し、サッカー界の重鎮では気づかないような視点で組織が改善された)
注意点としては、人種やバックグラウンドがバラバラでも、同じものに影響を受けた場合、多様性は生まれにくいこと。
例えば私の前職では、年齢層も幅広く(新卒から60代まで幅広い)、男女比も半々で、既婚者と独身者もほぼ同じでしたが、半数以上が同じ大学の同じ学部出身者でした。
その部署のトップが、自分の後輩ばかり選んだ結果です。
こうなると、一見多様性があるように見えても、考え方やバックグラウンドに多様性が生じにくくなります。
組織のヒエラルキーは必要だが要注意
集団にはある程度のヒエラルキーは必要だが、それが強く作用していると、情報(意見)の交換がなされず、視点が画一的になったり重要な情報を共有されたりせず、重大な結果を引き起こすことになります。
例として挙げられていたのは、エベレストの1996年の遭難事故。
映画『エベレスト3D』の題材にもなった事故です。
ここでは、エベレスト登頂を目指すチームの中で、経験値の違いなどから強い上下関係が生まれており、従う側が「おかしい」と感じた重大なヒントや手がかりをリーダーに伝えることができず、結果として多くの登山家が命を落とすことになりました。
また、とある航空機事故でも、副操縦士やスタッフが機長に必要以上に気を使い意見を言うことができず、結果として墜落してしまうという事故が起きました。
ヒエラルキーがない、完全にフラットな組織では最大限パフォーマンスを発揮できないという実験結果もありますが、ヒエラルキーが強すぎてもチームとして機能しない。
なかなか難しいですね。
イノベーションとは、既存のものの掛け合わせ
イノベーションと聞くと、ゼロから新しいものを生み出すことのように感じますが、実はすでに存在するものの掛け合わせであることがほとんど。
iPhoneや電気自動車、IoTなど挙げればキリがないですが、どれも意外なものの組み合わせばかり。
ただ、その業界に長くいる経験豊富な人であればあるほど、そうしたイノベーションを生み出しにくく、またチャンスを逃しやすいと述べられています。
例えば、スーツケース(キャリーケース)。
今や、長距離の旅行や出張で大きな荷物を持つ人で、キャリーケースではない人を探す方が難しいくらい、キャリーケースは当たり前に世の中に浸透しています。
ですが、当初このキャリーケースを考案した人がカバン会社の上層部に商品化を提案したものの門前払い。当時の大手のカバン会社の偉い人たちは、「そんなもの誰も買わない」とキャリーケースのアイディアを誰も真剣に取り合わなかったと言います。
その後、NYの大きな百貨店のバイヤーが目をつけて販売、飛ぶように売れ、今や世界中の誰でも持っている品物になりました。
このように、業界に精通している人は視野が狭くなりがちで、新しいものを考えだしたり、新しいアイディアを否定的にしか捉えられなかったりして、結果として大きなビジネスチャンスを逃すこともあります。
業界やキャリアのバックグラウンドが多様な人をチームに置くことで、新しい感性や観点から物事を検証することができ、組織の強みになっていくでしょう。
この本で学んだことをどう活かしていくか
主に組織のお話でしたが、多様性を自分の生活に取り入れることで自分自身に磨きをかけることができるはず。
- 新しい友達を作る。
- 月に一度は新しいお店を開拓する。ジャンルや場所も広げる。