ブレイディみかこさんの『両手にトカレフ』を読んだ。
ブレイディみかこさんといえば、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で有名。
私も読んだが、読みやすくて情景が目に浮かぶような文章で、考えさせられるテーマも含み、そして文章を作りにあたりしっかりリサーチもされていて、とても好きな作家さんの一人。
そんなブレイディみかこさんの初の長編小説ということで、早速本書も読んでみました。
あらすじ
私たちの世界は、ここから始まる。
寒い冬の朝、14歳のミアは、短くなった制服のスカートを穿き、図書館の前に立っていた。
そこで出合ったのは、カネコフミコの自伝。
フミコは「別の世界」を見ることができる稀有な人だったという。
本を夢中で読み進めるうち、ミアは同級生の誰よりもフミコが近くに感じられた。
一方、学校では自分の重い現実を誰にも話してはいけないと思っていた。
けれど、同級生のウィルにラップのリリックを書いてほしいと頼まれたことで、彼女の「世界」は少しずつ変わり始める――。
Amazon作品紹介ページより引用
今の時代を生きる14歳の少女、ミア。
そして、本を通じて知った大正時代の日本人の少女・カネコフミコ。
本書では、二人の人生を交互に行き来しながら、厳しい環境を耐えて生き抜く少女の姿を描く。
これは決して小説になるような特異で特別な話ではなく、自分自身もしっかり周りに目を向けると、すぐそばに同じ境遇に苦しむ少女・少年がいるのではないか・・・と思わせられる。
私自身は、シングルマザーに育てられたので決して裕福な生活はしていなかったけれど、母親は一生懸命働いてくれて不自由のない暮らしができていた。
「オシャレな服が欲しかった」「海外旅行に行きたかった」と、欲を張ればキリがないけれど、私たち兄弟を2人とも大学に入れてくれたおかげで私たちは自立して好きな暮らしができ、社会の役にも立ち、幸せな生活を送れていることは間違いない。
一方で、親が定職につかずその日暮らしもままならず、最悪の場合、ネグレクトや虐待で命を落とす子供たち、命を落とさずとも心に深い傷を負う子供達も珍しくない。
センセーショナルな事件が起こると数日はテレビでも取り上げてくれるが、あっという間に忘れ去られたり、そもそもニュースとして取り上げられることもないケースも多いのではないだろうか。
本書は、そうした苦しむ子供たちの存在を社会に知らしめ、私たち大人に考えさせてくれる作品である。
金子文子
本書に出てくるカネコフミコは、実在の人物である。
恥ずかしながら私は本書を読むまで存じ上げなかったが、読後に調べたところ、23歳という若さで獄死したと知り、なんともいえない暗い気持ちになった。
内縁の夫でもある朴烈とともに、天皇主権国家を倒そうと企てたとして逮捕され、死刑判決を受けたもののその後無期懲役に減刑されたが、結局獄死したという。
ウェブで彼女について調べると、逮捕に至った活動や思想についての記述が多いが、本書では金子文子の幼少期のストーリーがメインである。
家を転々としたこと、学校に満足に通えなかったこと、祖母からひどい虐待を受けていたこと。
大人になって見れば、「そんなところからすぐ逃げてしまえばいいのに」と簡単に考えがちだが、子どもの世界では家や家族が自分の世界のすべてであり、どんなひどい目にあっていても家族のためになりたい・そばにいたいと思うものだということを、この本を読んで思い出させてもらった。
天皇主権国家を倒そうとしたとか、朝鮮人の男性と恋仲だったとか、今の時代とても叩かれそうな存在だけれども、本書によって金子文子の人生の一部に触れ、彼女は非常に聡明で強く、かっこいい女性だったのだと心から思った。
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